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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)257号 判決 1987年11月30日

原告

本州製紙株式会社

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が、昭和58年審判第7661号事件について、昭和61年8月14日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「集合・小分け包装箱」とする考案(以下「本願考案」という。)につき昭和52年1月17日実用新案登録出願(昭和52年実用新案登録願第3013号)をし、昭和57年3月3日出願公告(実公昭57-11002号)されたが、昭和58年3月22日拒絶査定を受けたので、同年4月19日審判を請求した。特許庁はこれを同年審判第7661号事件として審理し、昭和61年8月14日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月8日、原告に送達された。

2  本願考案の実用新案登録請求の範囲

天面開口状の複数個の四角筒容器Aを、互いに側壁が接した状態で1列に並べ、これら複数個の容器の開口面全域を、その面積に相当する広さの天板1と、該天板1の相対向する両端縁からそれぞれ延長させた各1枚のフラツプ2と、さらにカツトテープまたはミシン目からなる切取部3とを有する蓋板Bで覆い、かつ、前記の各フラツプ2を、1列に並べた四角筒容器の配列方向と平行に配設した上で、これらフラツプを複数個集合させた前記四角筒容器Aの側壁に貼着して一体となすとともに、前記切取部3を複数個の各四角筒容器の間に位置させるようにしたことを特徴とする集合・小分け包装箱(別紙(1)図参照)

3  審決の理由の要点

1 本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

2 これに対し、実公昭50-5480号公報(以下「第1引用例」という。)には上面を開口し内部に被梱包物を収納した単一梱包体を適数個集合し、それら集合した梱包体の天面開口全面を、係止片を有し、単一梱包体に対応してミシン目等の切取部を設けた下部天当板で覆い、係止片を梱包体の側壁にステープル等で固着するとともに、必要に応じて切取部において切離することにより、蓋体を有する個別梱包体に分離することのできる集合梱包体が記載されており、その単一梱包体として四角形箱体を1列2個2列に集合し、係止片を列方向と平行にして相対する側壁に固着するとともに、切取部で切離すことにより蓋体を有する四角形箱体に分離することのできる四角形箱体の集合梱包体が記載されているものと認められる。同じく米国特許第3193179号明細書(以下「第2引用例」という。)には、天板に連接されるフラツプを2個の相接している天面開口の角形容器の側板に貼着して天板を固着することが記載されているものと認められる。

3 そこで、本願考案と第1引用例に記載されたものを対比すると、両者は、天面開口の複数個の四角筒容器を互いに側壁が接した状態に集合し、その複数個の容器の天面開口全域に相当する面積の天板と、その天板に連接されたフラツプと、各四角筒容器に対応したミシン目等の切取部とを有する蓋板で、フラツプが四角筒容器の配列方向と平行になるように集合した容器の開口全面を覆い、フラツプを四角筒容器の側壁に固着して集合包装体となすとともに、切取部で蓋板を切離すことにより、蓋体を有する各四角筒容器とすることのできる集合包装体の点で一致しており、他方、(イ)本願考案では複数個の四角筒容器を側壁が接した状態で1列に並べて、フラツプを列方向と平行となるように、その天面開口に蓋板を貼着しているのに対して、第1引用例にはその点の明示を欠く点、(ロ)本願考案の集合包装体を切取部で分離した四角筒容器は、相対する壁面に蓋板のフラツプを固着した構造となるものであるのに対して、第1引用例はこの点の明示を欠く点、及び(ハ)本願考案ではフラツプの固着を貼着により行つているのに対して、第1引用例ではステープル等で行うことを示していて、その点の明示を欠く点で相違しているものと認められる。

4  そこで、前記相違点について検討する。

(1)  相違点(イ)(ロ)について

第1引用例に具体的に示す4個の四角形箱体の集合梱包体は、それは被包装物が冷蔵庫、洗濯機、テレビ等の重量物を4個集合させて1枚の下部天当板により集合梱包体として、運搬に便ならしめるようにするものであるから、そのようなものを4個集合させるに当り、1列4個に集合させるよりは前記のように集合させた方がよいことと認められるからであつて、第1引用例の記載からするならば、単一梱包体を適数個集合するものとして、そのような具体的に示される集合形態に限定される事由は見当らない。しかして、第1引用例の記載からみて、具体的に示す四角形箱体の単一梱包体の1列2個の2列の集合体を、1列2個だけに集合し、係止片を列方向と平行となるように下部天当板を固着することにより、2個を集合梱包体とすること、そして、切取線において分離することにより蓋体を有する個別梱包体とすることは、当業者が適宜になし得ることと認められる。また、3個以上の場合も、奇数の場合は、殊に集合形態からみて、偶数の場合は2列に集合させる形態に替えて、2個の場合と同様に1列に集合し、係止片を列方向と平行となるようにして下部天当板の係止片で固着し、個々に分離できる集合梱包体とすることは、被梱包物があまり重量物でない限りは第1引用例より当業者が適宜になし得ることと認められる。そして、そのような集合梱包体を切取線で分離した場合には、具体例に示す4個の集合梱包体を分離した場合とは異なり、四角形箱体の相対する側壁に係止片が固着されたものとなり、蓋体がしつかりと取付けられた個別四角形箱体となることは自明なことと認められる。してみると、本願明細書記載の本願考案の効果も、前記したことからするならば、第1引用例より当業者に予期し得る程度のものであつて格別のものとは認められないので、相違点(イ)(ロ)は第1引用例より当業者が極めて容易に想到し得る程度のことにすぎないことと認められる。

(2)  相違点(ハ)について

フラツプの固着を貼着により行うことは第2引用例に示されていることから、第1引用例の係止片のステープル等による固着に替えて、貼着により行うことは、第2引用例より当業者が適宜に行なえる設計事項にすぎないことと認められる。

5  したがつて、本願考案は、第1及び第2引用例に基づいて、当業者がきわめて容易に考案し得たものであるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点1、同2の事実中第1引用例が係止片を列方向に平行にして固着しているとの点及び切離し後蓋体を有するとの点を除く部分、同3の事実中第1引用例が切離し後蓋体を有するとの点を除く部分はいずれも認める。同4の(1)中、第1引用例に具体的に示す4個の四角形箱体の集合梱包体は、被包装物の冷蔵庫、洗濯機、テレビ等の重量物を4個集合させて1枚の下部天当板により集合梱包体として運搬に便ならしめるようにするものであるとする点は認め、その余及び同4の(2)並びに同5は争う。

審決には、次のとおり第1引用例についてその構成の認定を誤り、本願考案との目的、効果の相違及び本願考案の商業的成功を看過した結果誤つて本願考案の進歩性を否定した違法があるので、取消されるべきである。

1 単一梱包体の集合及び係止片固着方法についての理由齟齬、事実誤認(取消事由(1))

(1)  審決は、第1引用例における単一梱包体の集合及び係止片の固着方法について、一方では「単一梱包体として四角形箱体を1列2個2列に集合し、係止片を列方向と平行して相対する側壁に固着する」と認定しながら、他方では、本願考案との相違点(イ)として、本願考案ではフラツプが列方向と平行となつているのに、「第1引用例にはその点の明示を欠く」と認定している。

右によれば、審決はその前段と後段で係止片の固着方法について矛盾した判断を示しており、理由に齟齬がある。

(2)  そもそも、第1引用例における係止片の固着方法が、列方向に平行しているとの認定はなんの根拠もない独断である。

この点について、第1引用例明細書(甲第3号証)の本分中には、どこにもその旨の明示的記載がないばかりか、間接的に推測させるような表現もない。僅かに、甲第3号証の図面(別紙(2)図参照、以下同じ。)の第1図、第2図に、単一梱包体4個を集合する場合の実施例としてフオークリフトの爪の延長方向に平行になるように係止片(本願考案のフラツプに相当する)を連設させた例が図示されているに止るが、これとても、「列方向に平行」しているとはいえない。配列方向と平行であるか否かは、その前提として、集合梱包体の配列方向とはなにかが明確でなければならないが、右両図はいずれも上面がほぼ正方形の単一梱包体4個を2列平行に集合させたもので、配列方向は全く特定されていない。フオークリフトの爪と平行する方向だけが配列方向で、それと交差する方向は配列方向ではないとは、到底認められない。むしろ、第1引用例に開示されている単一梱包体を集合させる思想は、運搬の便宜のためにはいかに収納させるのが最も望ましいかとの命題を解決するため、できるだけ1点に収斂させようとしていることである。同号証の図面の第1、2図に示されるとおり、4個を碁盤目模様に集合させれば、集合体全体の幅も長さも短くなり、最も運搬に適した形になる。この場合、フオークリフトで持ち上げるためには、係止片はその爪の延長方向と平行でなければならないが、その目的を除けば、2列2個の縦方向であろうが、横方向であろうが、一向に差し支えないのである。

したがつて、第1引用例には、係止片を列方向に平行に固着する思想もないし、そのような事実もない。これに反した審決の認定は明らかに事実を誤認している。

2 集合梱包体切離し後における単一梱包体の蓋体に関する事実誤認(取消事由(2))

審決は第1引用例記載の考案において、集合梱包体を切り離すと蓋体を有する単一梱包体となる旨認定しているが、切り離し後の蓋は、その蓋の1辺に付設された係止片によつて片側だけが単一梱包体に付着した状態となるだけで、他の3片は全くのフリー状態におかれ、単一梱包体とは何ら接合されていない。このように切り離し後の下部天当板は、単に単一梱包体の上側に存するというだけで、せいぜい片ヒンジのヒラヒラした蓋となるにすぎず、蓋体としての機能はまつたく果していない。第1引用例はそれを認めた上で、その欠陥を補う手段として「接着テープ等で固定して単一梱包体の蓋体とする」(甲第3号証2欄34行)ことによりはじめて蓋としての機能を充足させているのである。審決はこの点を全く看過し、切取部で蓋板を切離すことで蓋体を有する単一容器とすることができると速断した点で認定判断を誤つている。

これに反し、本願考案にあつては、小分け後の箱は、その構成からいつて分離と同時に容器の開口面を完全に閉塞した蓋が取付けられた状態となり、後からこの蓋を身箱に固定しなければならないといつた手数は一切必要としないのである。

被告は、第1引用例の天面開口を覆う板体は、充分蓋体の役目をしている旨主張するが、半開きの蓋では商品のバージン性が失われるので、店頭販売には到底適さないし、接着テープを用いても同様であるばかりか、テープを施す手数からみても本願考案とは質的に異なる。

したがつて、審決の前記認定は誤りである。

3 第1引用例から1列2個以上の集合体とし、係止片を列方向と平行になるようにすることが当業者の適宜選択事項であるとした判断の誤り(取消事由(3))

(1)  本願考案は、複数個の四角筒容器を1列に並べた上で、それら容器の開口面全域を、前記列方向と平行に設けた2枚のフラツプを有する天板で覆つた後、該フラツプを前記容器の側壁に貼着するようにした構成である。

これに対し、第1引用例の梱包体には右に述べた本願考案の構成は開示されていない。開示されているのは、甲第3号証の図面の第1、2図ならびに第5図に明示されているように、4個の単一梱包体1が1点に収斂するように(集合体全体の幅も長さも短くなるように密に)集合させた上で、それら全部の集合体に対して1枚のほぼ正方形の下部天当板6をあてがい、該天当板の両側縁から延長させた係止片7をフオークリフトの爪の延長方向と平行になるように下向きに折曲げた上で、これを集合体の側壁に穿設した横方向の長孔5に挿入しており、しかも右係止片と側壁との間には第3図(イ)(ロ)に示される通りの間隙が保たれるようにして係止片を側壁に取り付けている点である。このように、第1引用例における単一梱包体の集合のさせ方は複数個の梱包体ができるだけ1点に集まるように収斂させて集合させるという思想で、そのことは第1引用例の明細書中にも「単一梱包体を適数個集合密接する」(甲第3号証2欄24行)という以外には説明がなく、図面の上でも具体的には4個の梱包体について右に見たような集合のさせ方が開示されているにすぎず、また、このことは第1引用例が運搬基台の省略(パレツトレス)を考案の目的としているところからも明白に知られるのである。これを要するに、第1引用例には個々の梱包体である容器を集合させるに際して、これを1列に並べるという思想については、まつたく開示がなく、図面の上でもいわば碁盤目模様に並べられているだけである。

しかるに審決は、右のように碁盤目模様に並べられた集合体を分断して縦、横各1列と見た後、その中から結果的に下部天当板に設けられた係止片にそつた列方向のみを促えて、この中にも本願考案と同様に、複数個の容器を1列方向に並べるという概念が開示されていると認定したものであつて、その認定は、結果から構成(原因)を導くといつた論理上の誤りを犯している。

(2)  また、係止片を列方向に平行に固着する思想が第1引用例に開示されていないことは1(2)で述べたとおりである。したがつて、本願考案は、集合小分けという技術思想に対し、1列2個以上の集合体とし、係止片を列方向と平行になるようにするという第1引用例には開示も示唆もない構成を付加して第1引用例では到底期待できない特段の効果を発揮させるようにしたものであるにかかわらず、審決は右付加構成の有無ならびにそれによる効果の違いを比較検討することなく、本願考案を当業者が適宜になしえると判断した点で審理不尽、理由不備の違法がある。

(3)  被告は、乙第1号証の1ないし4を挙げて「1列2個に集合梱包することは極めて周知のことである」と主張するが、右乙号証は、単に「個数単位で取引される商品を2個以上まとめて包装する場合(このことを乙号証では「集積包装」と呼んでいる)に、集積の方式として同号証1848頁に図解されているような1列または2列等に整列させるやり方があることを示しているにすぎない。問題は、右のように集積させたものを包装する「包装手段」または「包装形態」なのであつて、この点については、同号証第1846頁(2)項に解説されるように、集積のさせ方は、大別して、①箱詰め(外装箱に収納するやり方)と②上包み(フオールドラツピングまたはバンドリング)とがある旨を開示しているにとどまつている。右①②の具体例を甲第12号証たる「新包装技術便覧」1294頁~1298頁によつて示しておくが、これらの証拠資料からも明らかなように、1列2個に整列させたものを集積させる手段としては、従来これを外箱(外装箱)に箱詰めするか、あるいはシユリンクフイルム若しくはバンドリング(紐による結束)等の手段しか知られていなかつた。このことからしても、前記外装箱と個装箱とを兼体に用い、しかも販売促進機能をも発揮させるようにした本願考案が、その着想においても優れていることを、乙号証は物語つているといえる。

4 考案の目的、作用効果についての審理不尽(取消事由(4))

本願考案の目的は、その作用効果の記載からも明らかなように、商品を収納する多数個の小箱を1枚の蓋及びフラツプにより集合させ、運搬を便ならしめると共に、運搬後はこれを小分けして、完全な蓋を有するる単一の小箱に簡単に切離し、店頭においてそのままの状態で陳列販売が行えるようにすることにある。これに対して第1引用例考案の目的は冷蔵庫、洗濯機等の単一梱包体を適数個集合し、これを一体にして集合包装体としてフオークリフト等の運搬機械で運搬でき、且つ解梱の際、単一梱包体に分離できるようにすることにある。

両者は単一梱包体を適数個集合して運搬し、運搬後に個々の単一梱包体に分離するという限りにおいては、同じ課題解決を目的とする点で共通するが、第1引用例の考案はそれに止り、分離後の単一梱包体を商品として陳列、販売できる目的はない。換言すれば、第1引用例の考案における集合小分けは、運搬およびせいぜい倉庫における保管までを目的とするのに対し、本願考案にあつては店頭における陳列からユーザーに対する最終販売までを目的とする。

このような考案の目的の違いは、そのまま両者の作用効果の違いにも表われている。本願考案の作用効果は、

(イ) 複数の小箱である蓋なしの四角筒容器Aを1枚の蓋板Bで簡単にまとめることができるから、輸送、保管に当り前記複数の容器を1個の包装体として取扱うことができる(甲第2号証7頁6行~9行)。

(ロ) フラツプは集合した四角筒容器の側壁に対し断面コ字形を呈して貼着され、しかもこのフラツプは1枚物で、分割されていないから剛性が高く、したがつて集合した容器を一体化した際の強度が高い(同7頁10行~14行)。

(ハ) 蓋板Bに設けられた切取部を介して小分け作業も小箱を損傷することなく簡単に行える(同7頁15行~17行)。

(ニ) 小分け後は従来の蓋つき小箱と同様な完全な箱が得られる。すなわち、小分け後においても前記フラツプが小箱の相対向する2辺で容器Aに貼付されることになるので、それによる蓋の閉塞状態は完全であつて、箱内に異物が入り込むことがない(同7頁17行~8頁2行)。また、前述のとおり後から蓋を身箱に固定する手数を一切必要としない。

(ホ) 商品を詰めた蓋なし容器を1列に並べ、次いでこのものに1枚の共通の蓋を施してから、その1部であるフラツプを前記集合容器の側壁に貼着するだけで包装体が完成されるから、包装に当つての機械化を行える(同8頁3行~7行)。

であるが、第1引用例にあつては、単一梱包体の多数を運搬するに際し、集合梱包体とすることができ、そのため、運搬が簡単で省力できるというほかには、フオークリフトでの運搬基台の省略(パレツトレス)や天当板(上部当板のみであろう)の再使用可能の効果を奏するのみである。

また、一般に包装容器の優劣は、①包装自体の容易性②被包装物の保護性③運搬の便益性④外観の審美性により決せられる。本願考案はこれらの基準のすべてを充足しているのに対し、第1引用例の考案にあつては、僅かに③に応えられるだけにすぎない。第1引用例の考案においては、①について上部、下部天当板を設け、フオークリフトによる吊り下げ時の荷重に耐えさせるため、係止部分の固着方法を甲第3号証の図面の第3図(イ)(ロ)に示されるように複雑なものとしなければならず、包装の機械化は望むべくもない。②については、前述のとおり、切離し後の下部天当板は、そのままでは蓋として機能を果さず、被包装物の保護に欠けるばかりでなく、下部天当板の挿通孔12や外装箱4の下部には、固定部材15を取付けるための開口部等を設けなければならないので、箱内に異物が侵入するのを阻めないところである。さらに、④についていえば、右の上部蓋体を機能させるため、第1引用例の考案は接着テープなどで固定するが、それはそのまま右の如く開口部の存在と併せて、包装容器の外観を害し、到底陳列、販売に耐えられるものではない。包装容器に模様や印刷を付するとすれば、このような容器表面の欠落や後からの異物添付は、その美観を著しく害する結果となる。

右のとおりであるから、本願考案はその目的及び作用効果の面で、第1引用例とは異なつた特段の効果を発揮するものである。審決がこれらの作用効果に目を覆い、本願考案の効果も第1引用例から当業者に予期しうる程度のもので格別のものとは認められないとしたのは、その点で審理不尽の違法がある。

ところで、第1引用例は「梱包装置」と題する考案であるのに対し、本願考案は「集合小分け包装箱」と題する考案であるが、「梱包」とは、覆いや縄などをかけて荷造りをすることをいうので、主として輸送、保管に当つての荷扱い面からの商品の保護を目的とし、かつそ目的を達成出来る機能を備えた手段をいい、「包装」は、上記目的および機能を備えると共に、同時に商品を保護した状態で販売促進にも役立つような展示効果を有することが条件とされている。

審決は、このような梱包と包装の技術的課題の基本的な違いを看過もしくは混同して、第1引用例から本願考案が容易に想到し得ると判断し、いわば商品包装箱に要請される高度なレベルの技術的課題と社会的ニーズに全く眼をつぶり、本願考案の包装箱も単なる梱包物の1つに過ぎないと独断した点で、誤りがある。

被告は、「本願考案が店頭販売に利用できる点は原告の主観的意図にかかるもので本来の目的とみることはできない」旨を主張するが、その目的が明細書中に明示され、かつ本願考案の構成によれば、小分け後も完全に蓋が閉塞された小箱が得られ、しかも第1引用例のように小分け後の蓋体を接着テープ等で固定しなくても済む個装箱となり、それ故、商品のバージン性、美粧性を保証する機能を有することが明らかである以上、被告のいう主観的意図は、客観的な形で考案に化体されている。

5 本願考案の商業的成功を看過して進歩性を否定した認定判断の誤り(取消事由(5))

本願考案は、出願後の昭和53年9月頃より実施化され、原告会社においては、本願考案に係る包装形態に「セパレーツパツク」または「小分け可能なパツケージシステム」と名付けて広く業界に発表し、当業界での実際面での評価を仰いで来た。そのことは、1978年9月1日発行の「はとNo.183号」(甲第6号証の1)中、14、15頁及び同4、5頁所載の記事並びに「セパレーツパツク」と題する印刷物(甲第6号証の2)の記載からも明らかである。また、このセパレーツパツクは、同号証の2の図解にもあるように、構成がシンプルであるところから、機械化による自動包装にもなじむので、ユーザーはもとより包装業界でも高い評価を得ている。その結果、社団法人日本包装技術協会より、包装の合理化・改善向上に顕著な業績を挙げたものと評価されて、業界でも栄誉とされる「木下賞」を受賞し、他方では78日本パツケージングコンテストにおいて「グツドパツケージング賞」のうちの「P・O(物的流通)賞」を受賞した(甲第7号証の1、2参照)。右セパレーツパツクが「木下賞」を受賞したのは、本願考案が「包装材料費の節減、省力化、機械化、販売促進等に貢献したと同時に、マルチ包装として消費者包装の具備すべき要件を満足」(甲第7号証の2、29頁左欄参照)させたからであり、本願考案の画期的な効果によるものである。

右のセパレーツパツクは、発売開始以来好調に推移し、昭和61年末現在、これに使用される包装材料たる段ボールを基準とすると、年間の出荷料は1,100万m2、同販売金額は約11億円の多量、多額に達し、この傾向は、更に増加の見込みである。また、同種の包装システムは本願考案の出願後に、原告以外でも採用するようになつてきており、それらの包装材料使用量を含めると、業界全体としての取扱量は更に増大することが明らかである(甲第13号証参照)。

本願考案に係る集合小分け包装箱、換言すれば「セパレーツパツク」が当業界においても好評裡に迎え入れられている事実は、甲第8号証の1ないし3として示す業界紙「板紙・段ボール新聞」昭和57年4月、同58年1月発行及び雑誌「段ボールの経営と技術」82年4月10日号の各記事からも明らかであつて、そこには、消費者ニーズの多様化、コンビニエンスストアの増加などで、段ボール箱も急速に小型化してきた中で、本願セパレーツパツクがユーザー筋で高く評価され、業界の大きな注目を集めていることが、トツプ記事または大きな見出しの下に、詳しくその内容にまで立ち入つて報道されている事実があり、そのことからしても、本願考案の有用性についての評価が客観性をもつて裏付けられているといえる。また、業界紙たる「板紙・段ボール新聞」昭和59年3月5日号(甲第10号証)には、次のような記事が掲載されている。すなわち、「合理化、新製品、技術の紹介…小分け包装を要望」との見出しで、「本州製紙が開発したセパレーツパツクが導火線となり、数多くの包装技法が開発され…物流、流通面を重視した包装の見値し気運が高まりつつあるのが現状である。」と、業界の認識が率直に語られているのである。

なお、本願考案の出願後において、本願考案とは構成は異なるが、同じ着想をもつた集合小分け包装が原告以外の他社によつても考案され、それらについても業界において多大な関心が寄せられ、業界紙が競つてそれをとりあげている。(甲第9号証の1ないし4で示す業界雑誌「段ボール情報」並びに同号証の5ないし9で示す「板紙・段ボール新聞」の各記事参照)。

仮に被告が主張するように、本願考案が第1引用例から極めて容易に考案し得るようなものであるとしたら、業界において右に指摘したような評価は得られなかつたであろうし、他方、第1引用例が公知になつたのは、本願考案が出願された時点からみても2年も前なのであるから、業界において、つとに実施されているのが自然であると認められる。然るに、右のような事実はないのであるから、本願考案が甲第3、4号証から当業者にとつて極めて容易に推考し得るとの審決の認定は、妥当でないことが明らかである。

被告は、本願考案にかかるセパレーツパツクが商業的成功を博していても、それは変革した流通業界の要望による経済的理由によるものであつて、本願考案そのものの効果と見ることはできない旨を主張する。

しかしながら、被告のいう右要望ないし経済的理由は技術開発の動機ないしは目標にはなりえても、これを実現するための手段と結びつかない限り、商業的成功はありえない。これを達成するためには、さまざまの手段が考えられるところ、本願考案は流通過程では集合して運搬が可能であると同時に、小売店ないし消費者段階では小分け販売が可能で、かつ美粧性・バージン性にも優れ、経済的にも安く済む等の作用効果を果すため、圧倒的な商業的成功を収めているのである。被告の主張は、単なる目標にすぎない経済的理由を過大に評価し、本願考案の作用効果に対しては過少に評価している。

第3請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認めるが、4の主張は争う。

2  原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決には違法の点はない。

1 取消事由(1)について

審決で、本願考案と第1引用例に記載の考案との対比で示した相違点(イ)における第1引用例に明示を欠くとした点は、本願考案におけるフラツプが単に列方向と平行となつているというだけではなく、審決記載のとおりの「本願考案では複数個の四角筒容器を側壁が接した状態で1列に並べて、フラツプを列方向と平行となるように、その天面開口に蓋板を貼着している」点が第1引用例には明示を欠くとして、相違点として挙げたものであつて、審決における第1引用例に記載の考案の認定との間に、原告主張のような判断の矛盾はない。

2 取消事由(2)について

第1引用例に記載される4個の集合梱包体を分離した後天面開口を覆う板体は、取付けは完全ではないとしても、1側壁に係止片で固定されて天面開口を覆つていることからみて、充分蓋体の役目をしているものと認められる。原告指摘の接着テープ等で固定する旨の第1引用例中の記載は、蓋体をより完全ならしめるものであつて、審決において前記板体を蓋体と認定した点に誤りはない。

3  取消事由(3)について

第1引用例に記載の考案において、単一梱包体を適数個集合したものを、下部天当板で集合梱包体となすことが出来るのは、下部天当板の係止片を集合した単一梱包体のそれぞれの側壁に固着することによつてなすことが出来るものであるので、係止片と平行方向の単一梱包体の並びを列方向と見たものであり、第1図及び第2図に示される四角形箱体4個を集合梱包体としたものを、「1列2個2列に集合し、係止片を列方向と平行にして相対する側壁に固着する」と審決で認定したことに誤りはない。

次に、第1引用例に示される4個の集合梱包体において、1列2個は最小単位であることからして、1列2個の集合体とすることがきわめて周知であることはいうまでもないことである。また3個以上の場合、列方向に集合梱包することもきわめて周知のことである。すなわち、乙第1号証の3、1845頁下から2、1行には「個数単位で取引される商品(重量や容量に対して)を、2個以上まとめて包装することが広い意味で集積包装である。」と記載され、同1846頁下から3行~1847頁5行と1848頁の図5-595の3-1-aないしcに1列に並べる集積方式が記載されており、また同1847頁11行には『集積装置における集積の方法は「1列に整列させること」を基本とする。』と記載されていることからみて、1列2個さらにに3個以上の場合も列方向に集合梱包することはきわめて周知であつたと認めることができる。したがつて、第1引用例における4個の集合梱包体の技術を列方向の1列2個の集合梱包体に適用することは、当業者のきわめて容易に想到し得ることである。その際、保持をなるべく強固にすることは当然の要求であり、しかも、係止片を2個の梱包体にまたがるようにした方が、保持が強固となることは自明のことと認められるから第1引用例に記載の4個の集合梱包体の技術を2個の集合梱包体に適用するに当つて、2つの係止片を列方向と平行な方向で側壁に固着するようにすることは、単なる設計上の問題に過ぎないものと認める。そのようにされた1列2個の集合梱包体を切り離した後の個別梱包体は、相対する側壁に係止片が固着されて強固に蓋体を有するものとなることは、そのような1列2個の集合梱包体としたことからくる当然の帰結である。

したがつて、第1引用例記載から、1列2個の集合梱包体が当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことと判断した審決に誤りはない。

4  取消事由(4)について

前記3で述べたように、第1引用例の記載から極めて容易に想到し得る1列2個の集合梱包体は、その切り離し後の個別梱包体は当然に強固な蓋体を有することになるのであるから、本願考案におけるこの点の効果は格別のものとは認められない。なお、そのように蓋体を有することになる個別梱包体をそのまま陳列、販売するかどうかは、本願考案の要旨とは関係ない。

してみれば、本願考案と第1引用例考案との目的、本願考案の効果について、審決には原告主張のような審理不尽の点はない。

5  取消事由(5)について

原告は、本願考案について、甲第6号証の1、2及び甲第7号証の1ないし3を提示して、賞を受けた旨主張するが、該受賞が何ら本願考案の考案性を示すことになるものではない。

本願考案の集合・小分け包装箱の商業的成功があるとしても、その要因としては経済性・デザインの良否、販売方法、経済状況の変動等種々のものがあり、本願考案そのものの作用効果のみによるものとはみることができない。本願考案に係るセパレーツパツクが業界の注目を集めることになつた経緯について甲第8号証の1には、「このセパレーツパツクは、53年、本州製紙とライオンが共同で開発した包装システム。…これには専用の機械が必要。このためコスト高になることも多く、今までは用途も限られ、伸び悩んでいた。これが最近、とくに注目されてきたのは、消費者のニーズに対応した小売店や、コンビニエンスストアなど小型店舗が、品そろえと同時に、在庫を増やすため、商品を詰めた段ボールを小型、少量化するよう強く要求したことによるもので」(1欄~3欄)と記載している。この記載からみると、本願考案の集合、小分け包装箱が該小型、少量化の要望に対応できるものとして注目を集めるようになつたとしても、それは変革した流通業界の要望による経済的理由によるものであるので、本願考案そのものの効果と見ることはできない。

また、甲第9号証の1ないし9、甲第10号証及び甲第11号証の1ないし3に示される本願考案に係るもの以外の集合・小分け包装については、本願考案とは直接関係ないものであるので、それにより本願考案の考案性の判断に何ら影響を及ぼすものではない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実、審決の理由の要点のうち、本願考案の要旨の認定、第1、第2引用例に審決認定の記載があること(ただし、第1引用例が係止片を列方向に平行にして固着しているとの点及び切離後蓋体を有するとの点を除く。)、本願考案と第1引用例が審決認定の点で一致し(ただし、第1引用例が切離後蓋体を有するとの点を除く。)、審決認定の(イ)ないし(ハ)の点で相違すること及び相違点の検討において審決が認定した第1引用例に具体的に示す4個の四角形箱体の集合梱包体は被包装物の冷蔵庫、洗濯機、テレビ等の重量物を4個集合させて1枚の下部天当板により集合梱包体として運搬に便ならしめるようにするものであることは、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

(1)  前示当事者間に争いのない審決の理由の要点によれば、審決は、引用例の記載内容の認定の項(前記審決の理由の要点2)において、第1引用例の単一梱包体の集合及び係止片の固着方法について、「単一梱包体として四角形箱体を1列2個2列に集合し、係止片を列方向と平行にして相対する側壁に固着する」(以下「前段部分」という。)と認定し、本願考案と第1引用例との一致点、相違点を認定している項(同理由の要点3、以下「要点3」という。)において、両者の相違点として、「(イ)本願考案では複数個の四角筒容器を側壁が接した状態で1列に並べて、フラツプを列方向と平行となるように、その天面開口に蓋板を貼着しているのに対して、第1引用例にはその点の明示を欠く」(以下「後段部分」という。)と認定していることが明らかである。そうすると、審決が、前段部分で「係止片を列方向と平行にして」と認定しながら、後段部分で「その点の明示を欠く」と認定したのは、前後矛盾する判断であることは原告主張のとおりである。しかしながら、要点3によれば、審決は、同項において、本願考案と第1引用例の一致点として、「複数個の四角筒容器を互いに側壁が接した状態に集合し、」及び「フラツプが四角筒容器の配列方向と平行になるように集合した容器の開口全面を覆い、」と認定しており、同項の他の相違点(ロ)、(ハ)の認定と同理由の要点4の認定を併せ読めば後段部分は、第1引用例が四角筒容器を「1列に並べて」集合させることについての明示を欠くことを述べていることが明らかであるから、審決の理由の全体の趣旨は容易に理解することができる。したがつて、審決の理由に齟齬があるとはいえず、その旨の原告の主張は採用できない。

(2)  原告は、第1引用例には係止片を列方向に平行に固着する思想はない旨主張するので検討する。

審決認定の第1引用例の記載事項中前記争いのない部分によれば、第1引用例には、単一梱包体を適数個集合し、それらを下部天当板で覆い、その係止片を梱包体の側壁にステープル等で固着することにより集合梱包体とすることが記載されているところ、成立に争いのない甲第3号証によれば、同引用例の明細書には係止片を集合した単一梱包体の列方向に平行に固着する旨の明示的記載はないこと、同引用例記載の考案が単一梱包体をできるだけ1点に収斂させようとするものであることが認められる。しかし、右の事実によつても、前示係止片と平行方向の単一梱包体の並びを列方向ということは妨げられないから、第1引用例の実施例である甲第3号証の図面の第1図、第2図で示される単一梱包体4個の下部天当板の係止片による固着方法を「係止片を列方向と平行にして相対する側壁に固着する」とした審決の認定に誤りがあるとはいえない。第1引用例記載の考案が前示のとおり、単一梱包体をできるだけ1点に収斂しようとしていることは、単一梱包体の集合方法の問題であつて、そのことと係止片の固着方法が列方向と平行であると認定することとは視点が異なり矛盾するものではない。したがつて、原告の右主張は採用できない。

2 取消事由(2)について

前掲甲第3号証によれば、第1引用例明細書の実用新案登録請求の範囲の項には、①「単一梱包体を適数個集合してそれら単一梱包体の上面に固着せる下部天当板と…前記下部天当板は適数個の単一梱包体の蓋体を兼用して集合梱包体を形成し」(4欄8行~12行)と、考案の詳細な説明の項には、②「6は前記単一梱包体1の上面を覆い且つ複数の単一梱包体1を一体に固定して集合梱包体16を形成する下部天当板で、両側係止片7、7を前記単一梱包体1の外装箱4にステープル等で固着する」(1欄下から3行目~2欄2行)、③「また前記下部天当板6は単一梱包体1の蓋体を兼用しており解梱の際に切り離しが簡単なように単一梱包体1に対向してミシン目等を設けている」(2欄6行~8行)、④「また解梱においては…下部天当板6をミシン目に沿つて分離さすと共に接着テープ等で固定して単一梱包体1の蓋体とする」(2欄下から7行~4行)と記載されていることが認められる。右①~④の記載及び同号証の図面(別紙(2)図)の第5図によれば、第1引用例の考案は、下部天当板が単一梱包体の蓋体を兼用する構成であり、その実施例において集合梱包体を切離した後の下部天当板は、単一梱包体の1側壁に係止片で固定されているだけであるが、天面開口を覆つているので、蓋体としての機能を営んでいるものであり、開口面を完全に閉塞しなければ蓋体としての機能を有しないとは解されない。前記考案の詳細な説明の項の④の記載は、蓋体を単一梱包体に一層確実に固定することを目的としたものと認めることができる。したがつて、審決が、審決の理由の要点2、3で、第1引用例の集合梱包体の蓋板を切取部で切離すことにより蓋体を有する四角形箱体に分離することができる旨認定判断したことに誤りはなく、切離し後の四角形箱体が直ちに店頭販売に適するか否かは、右蓋板が蓋体の機能を有するか否かの判断とは無関係であつて、原告の取消事由(2)の主張は採用できない。

3  取消事由(3)について

成立に争いのない乙第1号証の1ないし3(新・包装技術便覧2、1971年12月20第1刷、(財)日本生産性本部発行)中の、「個数単位で取引される商品(重量や容量に対して)を、2個以上まとめて包装することが広い意味で集積包装である」(同号証の3、1845頁下から2、1行)、「集積装置における集積の方法は「1列に整列させること」を基本とする。はじめから集積列数に見合つた数の列に物品を送ることもあるが、これも1列がいくつか集つたものと考えられる。」(同1847頁11行~13行)との記載及び45-595の3-1-aないしc(同1848頁)によれば、集合梱包において1列数個に集合梱包することは、本願考案の登録出願前に周知であつたことが認められ、これに反する原告の主張は採用できない。そうすると、第1引用例の集合梱包体は、前記1(2)及び2で認定したとおり、単一梱包体としての四角形箱体を1列2個2列に集合し、係止片を列方向と平行にして相対する側壁に固着するとともに、切取部で切離すことにより蓋体を有する四角形箱体に分離することのできる四角形箱体の集合梱包体であるから、この集合梱包体を1列2個以上の単一梱包体から構成される集合梱包体に改めることは当業者が極めて容易に想到できる程度のことということができ、右改造後の集合梱包体を切取部で分離した単一梱包体は相対する壁面に蓋板の係止片を固着した構造となることは明らかである。

原告は、審決が第1引用例は複数個の容器を1列方向に並べるという思想を開示していると認定したのは誤りである旨主張するが、前記1(1)で認定したとおり、審決は、第1引用例は右技術思想について明示を欠くとして相違点(イ)に認定しているところであるから、原告の右主張は、主張自体理由がない。

したがつて、原告の取消事由(3)の主張は採用できない。

4  取消事由(4)について

本願考案と第1引用例とが、(イ)単一梱包体を適数個集合して運搬し、(ロ)運搬後に個々の単一梱包体に分離するという限りにおいては同じ技術的課題の解決を目的とすることは原告の自認するところである。そして、前掲甲第3号証によれば、第1引用例明細書には、(ハ)分離後の単一梱包体をそのまま商品として陳列、販売することを目的とする旨の明示の記載はないことが認められる。しかしながら、仮に本願考案が、分離後の単一梱包体をそのまま商品として陳列販売することを目的とするとしても、前示のとおり、第1引用例の集合梱包体を極めて容易に想到し得る1列2個以上の単一梱包体から構成される集合梱包体に改め、かつ係止片の固着を貼着により行えば(このことは当事者間に争いのない第2引用例の記載から極めて容易に行い得ると認められる。)、本願考案と同じ構成をもつことになり、本願考案と同目的を達成し同じ効果を奏するものといわなければならない。原告は「梱包」と「包装」の差異について主張するが、それが前記判断を左右し得るものでないことは右に述べたところから明らかである。

してみると、審決が本願考案の効果も第1引用例より予期し得る程度のものであつて格別のものとは認められないとした認定判断に誤りはなく、原告の取消事由(4)の主張は採用できない。

5  取消事由(5)について

成立に争いのない甲第8号証の1によれば、業界新聞に被告主張のとおり記載されていることが認められ、この事実によれば、原告主張の業界での高評価、受賞、商業的成功等は、仮にその事実が認められるとしも、流通業界の要望の変化による経済的理由が主な要因となつているのであつて、必ずしも本願考案が予期できない効果を生じたことによるものではないことが認められる。そうすると、原告の右主張事実は、前記進歩性の判断に影響を及ぼす程のものとは認められないので、原告の右主張は採用できない。本願考案の出願後のこれと同じ着想をもつた考案が業界においても注目を浴びた旨の原告主張事実についても同様である。

原告は、第1引用例が公表されたのは本願考案出願の2年前であるのに、それが実施された事実がない旨主張するが、仮にそのとおりであるとしても、前示の本願考案の商業的成功の理由と裏腹に、当時は流通業界の要望の変化が生ずる前であつたのがその理由と推認されるから、右主張は採用できない。

したがつて、原告の取消事由(5)の主張は採用できない。

3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 牧野利秋 木下順太郎)

<以下省略>

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